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新しい航空学
デビッド・アンダーソン氏の新理論

lairfoil流体や航空工学を学んだ人、パイロットライセンス所持者、飛行機に興味ある人なら誰でも翼に発生する揚力について次のように簡単に説明できるでしょう。「翼が空気中を運動するとき、翼の上表面の空気の流れは下面に比較して距離が長いために下面の空気の流れより速くなり、ベルヌーイの定理によって流れが速いほど気圧が低下するから、翼下面より翼上面の方が気圧が低くなり翼は上方へ引っ張り上げられる、これが揚力である」と。でもある人が翼に働く力についてよ〜く観察し、よ〜く勉強して、いままでの理論は全く間違いであると言うことを発見したのであります。つい最近の事です。そのことを記述した本「Understanding Flight」が出版されたの2001年の事です。いままでまことしやかに教えられていた揚力理論を真っ向から否定したのは、アメリカ人のデビッド・アンダーソンと言う人です。アンダーソン氏の理論は非常に理解しやすく、誰もが納得するものです。それまでどうも怪しいと思っていた人もこれで安心して飛行機に乗れるようになるでしょう。アンダーソン氏は今までの間違った考え方を次のように指摘しています。
翼の上面の空気の流れる速度ははその距離が長いから増加すると言うのは事実ではない。翼前縁で上と下に分かれた空気が後縁で交わるためには長い距離を走る方が流速が増加すると言う事実はない。だいたい前縁で分岐した空気が同じ時間をかけて後縁で交わる必要はない。風洞実験でもわかるが翼上面の空気流は事実下面の流れより速くなるのが観測できるが、後縁で交わるどころか、もっとずっと翼上面の流速は速い。

また空気の流速が上がると気圧が低下すると言う事実はない。たとえば飛行機の胴体に取り付けられている静気圧計の読みは高度によって著しく変化するが、飛行機のスピード、つまり機体の表面を流れる流体の速度によって変化する事はない。
coanda それではどうして揚力が発生するのでしょうか。アンダーソン氏はコアンダ効果を引用して簡単に揚力を説明してしまいました。コアンダ効果とは流れの中に物体を置いたときにその物体に沿って流れようとする流体の性質を言います。まっすぐに流れる空気の中に翼を置くと翼に沿って空気は流れます。これは空気の粘性と摩擦抵抗の影響です。翼に沿って流れる空気は図のように曲げられます。曲げられるからには空気に何らかの力が働いていると言うことです。その力の方向は流れの接線に直角であり、曲率の中心に向いています。最初に翼との衝突によって空気は曲げられますが、その時に空気に働く力は赤の矢印で示してあります。この力の反力は翼を下げる方向に働きます。その他の黄色い矢印全てはコアンダ効果によって空気に働く力であり、この力の反力が翼を持ち上げる揚力になると言う訳です。
つまり、コアンダ効果よって、空気の流れの進路が変えられ、その進路を変える反力が揚力になるわけです。
従来の理論では、揚力は翼の断面形状つまり翼型に依存しており、上下対象な翼型では揚力が発生しないことになります。また飛行機は背面飛行ができないことになります。でもコアンダ効果が全てを解決したわけです。

翼の上では、上に行くに従って空気は定常に真っ直ぐにながれるようになり、翼から十分離れた地点では翼の影響を全く受けなくなります。真っ直ぐ流れようとする空気と曲げられる空気の関係で空気密度は希薄になり翼の上の圧力が低下します。気圧が低下するためにベルヌーイの定理により空気の流速が増加します。

流れが速くなるから圧力が下がるのではなく、圧力が下がるから空気の流れが速くなるのです。

翼の後縁から離れた空気はダウン・ウォッシュと呼ばれ、地上から見ると、ほとんど垂直に下方に吹き出します。この吹き出す空気の質量とスピードによって揚力が計算できるわけです。
                               
spoonそれでは実験してみましょう。左の写真のように、水道の水を流してスプーン柄の先端を指で軽くつまんで水流に近づけてみましょう。スプーンの腹が水に触れた瞬間に、水はスプーンの腹に沿って流れ、勢いよく曲がります。スプーンはかなりの力で赤い矢印の方向に引っ張られるのが感じられるはずです。これが揚力を解き明かす「かぎ」だったのです。アンダーソン氏の理論は整然としており、納得できるものです。
さてこれまでアンダーソン氏が指摘している「嘘」を教えてきた航空界の教授、先生たちは、どう反論するのでしょうか。果たして教科書の記述は変わるでしょうか。
参考文献 "UNDERSTANDING FLIGHT"
Authers: David F. Anderson & Scott Eberhardt
Publisher: McGraw-Hill
First Published in 2001・・・この本をアマゾンで買う


それから月日が流れ、一世風靡したデビッド・アンダーソン理論も(航空学会に一石を投じたという功績は大きいと思いますが)その後欠点が指摘され、説得力は衰えて来ました。最近では、「流線曲率の定理」によって説明されるのが一般的です。流れのふしぎ (ブルーバックス) では最新の理論で揚力をわかりやすく説明しています。ライト兄弟の初飛行から100年以上たって、やっとその不思議が解明され、終止符が打たれた感じですね。ほっ。
(2011.11.19追記)

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